

丸の内キャリア塾とは、毎月第3火曜日に掲載しているキャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回1つのテーマを掲げ、キャリアアップに必要な考え方と行動方法について多面的に特集しています。今回のテーマは「リーダーシップ3.0を考える」。私たちが今、職場でリーダーシップを発揮するにはどうしたらよいのでしょうか。
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インタビュー
THS経営組織研究所代表社員/
慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
小杉俊哉さん
1958年生まれ。早稲田大学法学部卒業。NEC入社後、米マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、アップルコンピュータ、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授などを経て現職。著書に「ラッキーな人の法則」「キャリア・コンピタンシー」など。
「メンバーを支援する」のが
新しいリーダーの在り方
リーダーシップの在り方は時代とともに変わっていく。産業構造や人々の働き方が大きく変化している今日、最も有効なリーダーシップとはどのようなものなのだろうか。リーダーシップ研究に取り組む小杉俊哉さんが提唱する「リーダーシップ3.0」から、現代のリーダーの在り方を探る
肩の力を抜いた
等身大のリーダー
── 「リーダーシップ3.0」とは、どのようなものでしょうか。
小杉 これまでリーダーといえば決断力があり、メンバーを1人でぐいぐい引っ張っていく強さが必要と一般に考えられてきました。しかし今、企業でリーダーのポジションにある人の中には、そういう強さが自分にはないと思う人が少なくありません。事実、強くて、カリスマ性のある人こそがリーダーだと考えてしまうと、その役割を果たせる人は極めて限られてしまうでしょう。
私たちは卓越した力や強さがなくても役目を果たせるリーダーの形があっていいと考えました。肩の力を抜いた、等身大のリーダーです。それを表したのが「リーダーシップ3.0」という言葉です。
リーダーシップ3.0は、リーダーがチームのメンバーを支援することを重視します。様々な能力や可能性を持ったメンバーが十分に力を発揮できる環境を整えることで、チーム全体の能力を上げていく。それがリーダーの大切な役割だと考えるのです。
── 「3.0」以前のリーダーシップとは。
小杉 最も古いタイプの「1.0」は強大な力を持った権力者が部下を管理し統制する、専制君主的なリーダーシップです。1960年代までの日本企業では、このようなリーダーが一般的でした。
70年代になると、「1.5」が主流になってきます。「1.5」ではリーダーとメンバーがファミリー、運命共同体を形成します。明確な上下関係が作られ、メンバーはリーダーや会社に自らの人生を預けることで安心感が得られます。「日本的経営」のリーダーシップがこれに当たります。
日本経済が強かった時代には、この形がうまく機能していたのですが、90年代以降、終身雇用システムが崩れ、多くの企業が米国型の成果主義を導入しましたが、うまくいきませんでした。
その際に脚光を浴びていたのが欧米発「変革のリーダー」です。これを「リーダーシップ2.0」と呼んでいます。このタイプのリーダーは、自ら明確な答えやビジョンを持ち、年齢や性別に関係なく能力のある人をどんどん登用し、次々に革新的な方針を打ち出して、新しいサービスや商品を生み出していきます。そんな人たちこそが真のリーダーであると考えられていた時代が最近まで続いていました。
「答え」を求めて
衆知を集める
── 「3.0」型のリーダーが求められた背景は。
小杉 21世紀に入り、カリスマリーダーの時代は終わりました。今は、既存の要素を組み合わせて、試行錯誤しながら商品やサービスを作っていく時代です。
そうした時代には、経営トップが明確な答えを持つことが難しくなります。むしろ「衆知」、現場のリーダーや社内外から参画する意志と力のある人の知恵を集め、そこから答えを紡ぎ出していくスタイルに多くの企業が変わっていかざるを得ないのです。
そこで求められるのは、上から一方的に指示を出して部下を動かしていくリーダーシップではなく、リーダー自らが等身大の自分を見せ、メンバーとの間に信頼関係を築き、全員が最大の力を発揮できる環境を整えるリーダーシップです。それこそが「3.0」型のリーダーであり、今後はそのようなスタイルがますます求められるようになるはずです。
── 「3.0」を実践している組織はありますか。
小杉 リーダーシップ3.0を実践することは、顧客に最も近い現場が責任と権限を持つことを意味します。それを中間管理層や最も下で経営層が支えるという、顧客を頂点とする逆ピラミッドの組織構造が求められます。インドのあるIT企業は顧客重視を従業員第一主義に置き換えてこれを実践しています。中間層はメンバーに指示ではなくコーチングを行い、経営層はトップ自らが360度フィードバックを公開し、社員が誰でも最高経営責任者(CEO)を評価できる仕組みです。
日本企業の中でも、このような取り組みで変革に成功している企業があります。ビューティーコンサルタントに顧客対応や販売方針の全権を委任した化粧品会社や、ブランド事業部長が部下や他部門の社員の前で、期末に自部門の業績や成果をプレゼンする服飾メーカーなどがその例です。
永平寺に見る
リーダーシップ3.0
── 「3.0」は最新型のリーダーシップということですか。
小杉 必ずしもそうではありません。日本の伝統的な組織で連綿と受け継がれてきた例もあります。それは、曹洞宗の大本山である永平寺です。
永平寺では開祖道元以降、カリスマ的なリーダーは現れていません。それを必要としないと言っていいでしょう。永平寺では昔から20ほどの部署に分かれて仕事をしています。3〜6カ月ごとに「ジョブ・ローテーション」があり、異動先の部署で一から仕事を学びます。特徴的なのは、複雑な仕事も細分化して新人でもできるレベルにし、役割を任せてしまうことです。日々の生活を運営するための「鳴りもの」(鐘の音)は非常に重要な役割ですが、それを新人に任せてしまう。ミスは部署内で厳しく叱責されますが、それぞれの部署が責任と権限を持っており、他部署やたとえ猊下(げいか)であっても口を挟むことはできません。むしろ、部門リーダーは、担当者を守るのです。
責任と権限を与えられた上で、各メンバーに求められるのは専門性ではなく、自分の役割を果たし、自分の部署を他部署とうまく連携させ、寺全体の仕事を滞りなく回していくスキルです。
── 全員が全体最適を考えるということですね。
小杉 その通りです。永平寺のマネジメントが優れているのは、規律が厳しく一人前になるまで鍛えられるほか、責任や役割を細分化し、各人に早々に委ねてしまうことです。あとは、リーダーがその都度指示を出さなくても、各人の判断で行動するようになります。約1年間で僧侶をリーダーに育成する仕組みです。
日本経済新聞社が主催する働く女性のための実践的学習講座です。さまざまなテーマでセミナーを随時開催中。毎月第三火曜日に日本経済新聞夕刊東京本社版で連載し、キャリアデザインのための幅広い情報を提供しています。